番外編 蜉蝣庵訪問記


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12月23日(水)、天皇誕生日で休み。前日は忘年会と称し遅くまで盛り上がってしまった。案の定、明け方に目が覚め、頭がガンガン、胃がムカムカ。なんとか8時過ぎには起き上がったものの、何も食べる気はせず、早めに出発。車のヒーターをガンガンに効かせ、窓からは冷たい空気を目いっぱい入れ、すっかり冬となった吉野街道を奥多摩へ向かった。

目指すは、渓流界のスーパースターで、「月刊釣り人」でおなじみ、「奥多摩蜉蝣会」の杉山陸男さんのお宅。事前に連絡をしておき、奥多摩の駅に着いたら電話をすることになっている。年末の公私ともに忙しいところ、ご迷惑かとも思ったが、杉山さん作の「流木合せダモ(シカヅノ付き)」の写真を初級講座の中の用品紹介にどうしても載せたかったのだ。また頼まれていた蜉蝣会のカーステッカーを届けるということもあり、無理してお願いをしてしまった。(写真:カーステッカー。私が作ったオリジナルステッカーです)

この流木合せダモは、「月刊釣り人」の中で詳しく説明されていたが、簡単に説明しよう。まず、材料の木だが、名前のとおり川から拾ってきた流木だ。風や雪などで折れた川の近くの木や枝がその後の増水などで流れてくる。柄の部分と枠の部分の材料になりそうなものを、川岸やタルミで見つけたり、岩に引っかかっているのを外して持ち帰ったりと、すべて川に落ちているものだ。

そして、重要部品のシカヅノ、鹿の角である。これも、山に入るとたくさん落ちているので、友人が持ってきてくれたりと、自然と渓流を愛する杉山さんらしい、リサイクルと清掃を一緒にしてしまうような、すばらしい発想のタモだ。そして、完成品は見た瞬間「ワーすごい」という声がおもわず出てしまうほど美しく、見るものを魅了する芸術的な、また工芸品のようなすばらしい作品である。(写真:杉山作タモ。流木で作った渓流とアユ用のタモ。拡大すると素晴らしさが分かります。材料の流木も見えます)

杉山さんとは、彼がフジノナイロンの渓流インストラクターをしておられる関係で、私の師匠・中村プロを通して知り合い、ここ数年懇意にしていただいている。

さて、予定よりもだいぶ早く奥多摩駅に着いてしまった。杉山さんのお宅は日原川と奥多摩川の合流点から日原川に入ったすぐ近くにあり、家の前で待っていてくれた。「まず蜉蝣庵に行ってみようか」ということで、以前から私がリクエストしていた蜉蝣庵への訪問からすることになった。

蜉蝣庵は「月刊釣り人」などで紹介されているが、蜉蝣会の顧問、村木さんの自宅の斜面を利用した地下に囲炉裏の部屋を作り、メンバーの溜まり場になっている場所だ。入り口の「蜉蝣庵」の看板を見た瞬間、この中は期待を裏切らない、かなり凝ったものになっているなと予感した。(写真:蜉蝣庵入り口)

中に入った瞬間、その予感は現実のものとなり、村木さんや杉山さん、他のメンバーのこだわりを凝縮した空間が目の前に広がった。まず目に入るのが「囲炉裏」である。黒光りした木でできた、昔懐かしい立派な囲炉裏だ。その中央に鉄瓶が大きな鯉の彫り物に吊るしてある。そして、それを吊るしてある太い竹には、これまた太い藤のつるが自然に巻いてある。これだけで十分に感激ものだが、こんなもので感激していたら蜉蝣庵は許してくれない。(写真:蜉蝣庵の囲炉裏。左が村木さんで右が杉山さん)

壁には、村木さん作成のタモや、すでに生産されていない奥多摩のビク。このビクは人気があったが、生産者が高齢で生産できなくなり、最後の1つを購入したもので、かなりのプレミアが付くとのこと。

そして、建具なども黒光りして重厚な作りだったので、質問すると、100年以上前の民家が取り壊されると聞いて貰ってきたものらしい。そして、当然釣り人の集まる場所なので、ヤマメやイワナの魚拓や剥製。奥多摩の天然物が大型化したみごとなヤマメの写真も多数あった。(写真:杉山さん(左)と村木さん)

ふと、その中の額に入った写真を見ると「?」「秋山?」。そう、当時西武ライオンズの秋山選手や他の選手とご家族が、この囲炉裏端で杉山さんたちと楽しそうに写真に収まっている。なんでも10数年前に杉山さんがテンリュウマグナカップで優勝してから、釣りを教えてくれと、秋山選手側から来て、それから懇意になったらしい。

部屋全体が囲炉裏の煙でいぶされ、ほどよく黒光りした蜉蝣庵。この部屋を訪れ、囲炉裏部屋が気に入ってしまい、自宅に囲炉裏の部屋を作ってしまった人もかなりいるらしい。昔懐かしい田舎の風景がここにある!無口なじいさんが囲炉裏のいつもの場所に座り、焚き木の枝をピシッピシッと折り、囲炉裏に火をつける。徐々に明るくなり、そこだけが暖かく、唯一家族の集合する場所。それが囲炉裏だった。蜉蝣庵に入ると、そんな昔懐かし光景が思い出され、もう一度味わいたいと、多くの人が思うのだろう・・・。

さて、村木さん手作りのワサビの茎の漬物やピリッとした白菜漬など、おいしくてお茶を何杯も頂いてしまった。

蜉蝣庵をあとにして、次は杉山さんの自宅におじゃまする。玄関で奥さんに出迎えられ、さっそく杉山さんの作業部屋へ。(写真:桐の餌箱)まず、桐の餌箱。上質の材料(桐)で作った、川虫を長く活かしておくのに考案した餌箱。ここにも杉山さんのこだわりが感じられる。ふたがスライド式になっており、指で軽く空けられ、指を中に入れることにより、生きの良い川虫が指にたかってくる。指を入れた瞬間たかってくるような、生きの良い川虫でなければダメだと杉山さんは言う。餌箱の中の川虫を、つまむようなことはしないという、理にかなった話だ。そんな実釣の中から改良を重ねて、今日の餌箱のスタイルになったらしい。

そして、次はタモ。(写真:渓流タモと鮎タモ)写真のように、全体的にゴツゴツした感じで、材料の持ち味を極限まで生かし鹿のツノを贅沢に使ったタモで、写真でもその美しさが伝わると思う。私は以前から杉山さんのタモが欲しかったので、今日の訪問ついでに注文をしてきた。他の人の注文がまだ多くあるため、すぐにはできないということだが、気長に待つことで了解を得た。

このタモが私の宝物の一つになるのは確実で、今からできあがるのを楽しみにしている。こんなすばらしい杉山さん作の桐の餌箱やタモで釣りをしたいと思うのは私だけではないようで、注文をたくさん抱えており、ノートにぎっしりと、注文者の希望サイズや柄の角度や材料など細かな仕様が記入されていた。興味のある方、注文したい方は、電話で問い合わせてください(0428−83−3247 杉山陸男)。

さて、続きがもう少しある。蜉蝣庵の囲炉裏に魅せられ、また、奥多摩の渓流と自然に魅せられて都内から引っ越して、新築した自宅に囲炉裏を作ってしまった人物、山本栄司さん。氏の新築したお宅にも、杉山さんと共に訪問をしてきた。(写真:杉山さんと山本さん。新築の山本宅・囲炉裏前にて大ヤマメの剥製と)

山本さんは自分のホームページを持っており、ご存知の方も多いと思うが、4月まで「釣りパカweekly」というユニークな奥多摩専門の天然大ヤマメだけを狙い続ける記事を提供してくれていた。そして、5月からは装いも新たに「奥多摩釣道館塾」というページを運営している( http://www.linkclub.or.jp/‾ai-y/)。

地元奥多摩町の木材だけを使い、家の中にいながら森林浴をしているような木のいい香りの家。高台にある山本さんの囲炉裏からは目の前に美しい竹やぶ、そして奥多摩の美しい山波が広がる。壁には今年の9月にダム下で釣った34cmの天然ヤマメの写真や、35cmを超す幅広ヤマメの剥製などがたくさん飾ってある。「壁がいっぱいになったら天井まで飾ってやる」と話す山本さん。長年の夢がかなってとても幸せそうだ。

昔から奥多摩に住み、現在も奥多摩の自然を愛してやまない杉山さん。そして、これから奥多摩の住人となり、今までの都会生活からまったく違う環境で奥多摩の自然を愛そうとする山本さん。どちらの名人も、釣りを通して自然を愛する気持ちに変わりはないようだ。



カーステッカー

杉山作タモ

蜉蝣庵入り口

蜉蝣庵の囲炉裏

杉山さんと村木さん

桐の餌箱

渓流タモと鮎タモ

杉山さんと山本さん


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